塾の光景。上

防波堤  2009-09-17投稿
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それは他愛のない塾の光景からだった。
佳子という何処にでもありそうな名前で何処にでもありそうな性格をしている女子生徒が教科書を盗まれたというのだ。
そして塾という現場に不慣れで役に立たない女教師が見え透いて無理をし犯人捜し、そして補導などという吊し上げ寸前の教師としての自殺行為を行うと宣言した時から平和だった今までの塾の光景からは考えつかない程の緊張が皆の中を走り、お互い腹の探り合いが始まった。
まず最初に犯人候補に挙がった可哀相な奴は康夫というごくごく平凡な男子生徒だった。その康夫という奴を訴えたのは香絵という何処のクラスにも一人は居る自分勝手の正義感を振り回すタイプの女子生徒だ。
香絵が康夫を訴えるのは何故か、香絵の言い分は康夫がうろうろしながら佳子の机の周辺を回り、佳子の私物をちらちらと盗み見ていたという事らしい。
康夫はそれを聞いて慌てて弁明するが第一候補というレッテルを貼られているためどうも皆には白々しく聞こえたらしい。皆の非難が奴を襲う。康夫はその嵐に耐え切れなくなり机に突っ伏して泣き出した。
さて、こうなるともう事態の収集は難しくなる一方だ。今度は取り分け酷い非難をして恐らく康夫を泣かせた主犯だと思われているであろう香絵に言葉の嵐が降り懸かった。当然の如く香絵は泣き崩れ流石に今回は非難を向ける対象がいないのだろう。皆は一先ず黙った。
此処で困るのが女教師だ。彼女は無理矢理引き攣った笑いを見せると言った。「犯人は他みたいね」何という事か。ろくに生徒を注意せず泣いている奴の事もフォローせず新しい犯人捜しと来た。ぼくは愕然とした。
更に女教師は墓穴を掘った。「犯人は立ちなさい今からでも遅くないわよ」ぼくは更に更に愕然とした。もう事態は手遅れを物語っているのに間に合うとは。ぼくは今度こそ女教師に失望した。
また皆の非難が始まった。今度の対象は美咲という女子生徒で中々の成績を誇っている。しかし性格は悪い。皆の非難の対象になるのも当然といえよう。ぼくも非難の輪に加わる事にした。
暫く非難を続けていると美咲は怒り出した。「うるさい。私は何もしていないわ。あなたこそ怪しいじゃない」美咲が指差したのは隼人だった。隼人はあからさまに動揺しながら言った「俺は知らない」「知らないだと嘘をつくな」罵声が飛ぶ。



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