またもや簡単に非難の対象が変わった。ここでやっと事態の深さに気が付いたのか女教師が言った。「皆、酷い事を言うのは止めようね」しかしそれで止まる訳が無い。妨害されて更に怒った皆の非難は女教師に向かった。「教師なんだから解決しろよ」「一応先生でしょ?」一応という所を付ける辺り皆もこの女教師の無能さ加減が分かっているらしい。
女教師は酷く憤慨した。「皆の事は皆が解決するのよ」皆は言う。「だって見つからないじゃんか」「そうよ。此処は先生が出る可きよ」今度は女教師は頼りにされたと勘違いしたらしく嫌に張り切って言った。「実はね。先生には犯人の目星が付いているの」
皆は見るからに動揺した。誰一人女教師が分かるとは思っていなかったらしい。それに気が付かない哀れな女教師は言う。「犯人は大久保さんよ。先生、見てたんだから」これを聞くと大久保という女子生徒は叫んだ。「先生!私を犯人に仕立て上げる積もりなんでしょう!」今度は皆は大久保の言う事を信じた。再び非難が女教師へと向かう。
「嘘をつけ!」「この無能教師!」「ムダに給料貰いやがって!」女教師は酷く傷ついた顔をした。しかし直ぐに生徒達を睨み言い返す。「あなた達!口の聞き方には気をつけなさい!」それは生徒には逆効果で生徒は調子に乗り出した。「お前らに金払ってやってんのは俺等だぞ!」「役に立たない授業ばかりしちゃって!」教室内は騒音に包まれ生徒達は暴走を始めた。
そんな奴等をぼくは冷静に見詰めた。教師が変わる事を確信した。
そしてふと気軽に思った。
教師が変わるのはこれで何度めかな、と。
ぼくは授業中だが席を立ち出口に向かった。
そして教室内より酷い騒音で溢れ返っている道へ出た。
しかし直ぐに塾の内部に逃げ帰った。
それは。
もうぼくの居場所は。
あの下らない塾の中にしか無いからだ。抑ぼくがまともな世界に行くのが間違いなのだ。
ぼくは教室のドアの前で暫く俯いていたが決心した。
ぼくはこの狭苦しく汚い騒音と非難の世界で生きて行く事を決めたのだ。
淋しい哀しい世界で―――。
ぼくは顔を上げた。
そして自分の世界に帰るため世界に通じるドアを開けた―――。
ぼくは蛍光灯のまばゆい光に包まれた。
ぼくは初めて世界を美しいと思った。
END。