薄暗い部屋の中には三人の男たちがいた。
正確には四人。
解剖の済んだ被害者の遺体を囲む様に男たちは視線を下に向ける。
「首の動脈がすっぱり切られていました。ある意味ではショック死ですね」
解剖医の小田は自身の眼鏡を少し上げると淡々と言った。
「顔つきからして必死に抵抗したん…でしょうかね」
新米刑事の溝谷はぎょっとした様子で怖ず怖ず呟く。
「親指を除く指先全てに鬱血の跡があるでしょう？度合いはそれぞれですがま、かなりの力を入れて犯人に抵抗したと思われます」
言うなり遺体にかけていた黒のシートを下げる。
確かに指先には解剖医が指摘した通りうっすらと黒くなっていた。
だが視線の多くは指先よりも胸にいってしまう。
「１、２、３、５か」
押し黙っていた溝谷の上司である白石が低い声音で呟く。
事件から三日。
手探りの糸が束になるように被害者の細かい調査結果が浮き彫りになろうとしていた。
[680] 
[0] 
[0]
