「勉強に集中できないじゃないか!」
健人はテレビを見る弟に向かって怒鳴った。
高校受験を間近にひかえた健人は、とてもピリピリしていた。
「ごめんなさい、お兄ちゃん…」
弟はそう言い残して、バタバタと走って部屋を出て行った。
「もっと静かに出て行けよ!」
受験の日が近づくにつれて、健人はだんだん神経質になっていった。
トン、トン、トン…。
台所から包丁の音が響いた。
健人は注意をするために台所へと向かった。
「うるさくて、勉強に身が入らないよ!」
突然怒鳴られた彼の母親は、驚いて目を丸め、野菜を切る手を止めた。
「あら、ごめんね健ちゃん…。気をつけるから、勉強頑張ってちょうだい」
健人は黙って部屋に戻り、鍵をかけた。
カチッ、カチッ、カチッ…。
しばらくすると、壁にかけてある時計の秒針の音が気になり始めた。
「もう、うるさいなあ」
健人は時計を手に取り、思い切り床に投げつけた。
これでやっと、集中して勉強ができる…。
完全に無音となった部屋で、健人はひたすら机に向かった。
しかし……。
それからまたしばらくして、健人の耳にある音が入り込んできた。
やはり、その音が気になって集中できない。
ドクッ、ドクッ、ドクッ…。
「もう、うるさいなあ」
健人は、自らの鼓動の音を消し去るために、再び台所へと向かった…。