夕暮れの海。
防波堤に立ち、持っていた鞄から今日のコンペで使う予定だった資料を取り出す洋人。
何枚にも束ねてあった白紙の用紙をつかみ、目の前の海に向かってばらまいた。
一瞬にして満ち引きを繰り返す波に飲まれようとした時。
後からやってきた陽介が防波堤から海に飛び込んだ。
突然のことに驚き呆然と眺める洋人をよそに散らばった用紙を集める陽介。
「あの…。」
防波堤によじ登ってきた陽介に声をかけようとした時。
「あんた何やってんの?」
怒っている様子の陽介が口を開いた。
「どんな理由があんのか知んねぇけど、ゴミ捨てないでくれますか?」
「…。」
黙ったままうつむく洋人。
「あんた、地元の人間じゃないっしょ?子供でもこんな真似やんねぇから。」
びしょ濡れのまま立ち去ろうとする陽介。
「すみませんでした。」
謝る洋人に振り返る陽介。
「どう見ても旅行で来たカッコには見えないんやけど、大丈夫なん?」
「どういう意味ですか?」
「…いや、見慣れない人間が1人海にボーっと突っ立ってたら誰だって心配なるでしょうよ?」
「あー大丈夫です。」
冗談ぽくからかったつもりが真剣に答える洋人を見てなぜか笑いが込み上げてきた。
「何かおかしいですか?」
少し不機嫌そうに聞く洋人。
「悪い、悪い!ま、心配いらなさそうなんで帰ります。」
そう言いながら手を振り去っていく陽介の後ろ姿を不思議な顔で眺める洋人。
「…変な奴。」
お互いが同時にそう思っていた。