黒革のソファー、分厚い医療本、院長室には高そうな物がズラリと並んでいた。
「紅茶はアッサムで良いかな?」
「あっ、私が…」
代わろうとしたら手で止められた。
今日ここに呼ばれた理由は自分でもなんとなく分かっていた。
「………ところで井原君、どうだね例の件は?」
院長は単刀直入に訊いてきた。
「いえ、まだです」
だから、私も率直な意見を言った。
残念そうな顔も、驚いた表情もしなかった。
まるで私の出す答えが分かっていたかのよう……
出されたお茶は丁度いいぐらいの熱さで美味しかった。
「井原君………君の熱意、いや決意は理解しているつもりだ。
分かったうえで君に勧めているんだ」
「はい」
「どうだろう、考えを変えてみないか?
あちらで最新の医療を学ぶ、そうすれば彼を治す方法が見つかるかもしれないじゃないか?」
「……………私には責任があります。
途中で『良くやった』なんて自己満足で終わらすことは出来ないんです。
誠に申し訳ありません。
院長には私の我が侭を聞いていただいているのに……」
そう、
すべては根元から間違っている。
だけど、私は無力だから何も出来ない。
「今年中にはお応えしたいと思っています」
「…………期待して待ってますよ」
「そうだ………今、彼はどれぐらい持つんだい?」
「…………一週間程度です」
温くなったお茶を飲み干し、井原は部屋を出た。