妻は泣いていた。
滅多にする事もない夫婦ゲンカの時だって、
簡単に涙など見せる女ではなかったのに。
息子の吐いた暴言のショックが、よほど強かったのだろうか。
こういう時、父親として出るべき態度は決まっているが、
今となっては、父親の威厳さえ無くした俺が、
息子を叱りつけた所で、何の解決になるだろうか。
正直、こんな事を考えている自分が情けなかった。
俺は息子が怖いのか?!――
しかし、あの素直なユウがどうして――
『ユキエ。何があったのか説明してくれ。
ユウは何処へ行ったんだ?!』
事の経緯を聞かぬ事には、何の解決にもならないと言うのは、俺にも分かる。
『私の財布の中からお金を持ち出したんです。
前々からおかしいとは思っていましたけど、
今日、偶然その瞬間を目撃したから、ユウを叱ったんです。
そしたらいきなり―――』
涙声で話す妻の声に、俺は正直当惑した。
ここは、やはり父親として、息子に言うべき事を言わねばならぬ場面だろう。
『ユウは?!部屋にいるのか?!』
『えぇ。少し前に帰って来たわ‥‥。』
『ユウ!!父さん話がある。ちょっと下へ来なさい!!』