矢口と野崎は、雪渓の上に打ち上げられた遺体を、1体づつ慎重に引き摺りながら、少し離れた、岩盤の露出している辺りまで運んだ。
間もなく、200m程離れた、平らな岩盤の上に、ヘリコプター2機が到着し、数人が降りて来た。
その中には、斉藤隊長の姿も有った。
矢口は、斉藤に暴言を吐いた時に、腹を決めていた。
斉藤が、地図の作成と、セスナ機遭難事故の、捜索方法の責任を問われて、職を失うか、自分が首になるかの、どちらかだと。
野崎も、斉藤がどんな表情でやって来るか、気になっていた。
ところが、近くまで来た斉藤は、予想に反して、神妙な表情だった。
「矢口君、野崎君、本当にお疲れ様。矢口君、お父さんの遺体も発見出来たんだって?」
斉藤の態度に、2人は拍子抜けしたが、他の隊員も居るので、斉藤の調子に、合わせる事にした。