チンゲンサイ。?

麻呂  2009-09-22投稿
閲覧数[451] 良い投票[0] 悪い投票[0]


2階へ向かって叫んだ俺に、ユウからの返事は無かった。


『ユウ!!聞こえないのか?!早く下りて来なさい!!』


2人の息子達に、こうして声を荒げる事が、未だかつて1度も無かった俺が、


なぜ今、このタイミングなのか。


思春期の難しい時期真っ只中のユウと、その時期を通り過ぎたばかりのリョウが、


あまりにも素直でいい子達だったからと言う事なのか。



『うるせーな!!

何か用かよ!!クソオヤジ!!』


部屋のドアを開ける音とほぼ同時に、ユウが階下の俺に向かって叫んだ。


側で目を真っ赤にした妻が、俺の方を心配そうに見つめていた。


『ユウ!!分かった。俺がそっちへ行く。』


クソオヤジと呼ばれた事に対してではなく、


俺の中の何か別の所に、怒りの源がある様な気がしていた。


ユウの部屋のドアを開けた俺は、感情的になりがちなパターンを、出来るだけ回避する様心掛けた。


『ユウ。母さんから聞いたが、財布の中から金を持ち出そうとしたんだってな?!』


ストレートに放った言葉だけに、口調は穏やかに持ち掛けた。



『‥‥‥だったら何?!』



『必要な物があれば言いなさい。

黙って親の財布の中から金を抜き取るなんてのは、泥棒と同じだぞ。』



『うるせーよ!!

大体、会社を辞めたてめぇが、偉そうな事言ってんじゃねーよ!!

毎日公園でブラブラしてるの、色んなヤツに見られてんだよ!!

恥ずかしいと思わねーのかよ!!

馬鹿じゃねーの?!』



ユウは、俺の話を黙って聞いていたが、突然逆ギレし、


捨てゼリフを残して、家を飛び出してしまった。


息子に馬鹿にされたにもかかわらず、


なぜか、この時の俺には、それ以上の怒りは湧いて来なかった。



『ユウ‥‥うっ‥‥うぅ‥‥‥。』



静寂の中を、しばし妻の嗚咽が、辺りに響き渡った。

i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 麻呂 」さんの小説

もっと見る

その他の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ