アニキはいつも明るく、誰に対しても人なつこかったので、友達も大勢いた。
俺はそんなアニキの性格を羨ましくも思ったし、尊敬もしていた。
またアニキはこんなことも言っていた。
「良くも悪くも人にレッテルを貼っちゃダメだ。人には、色んな一面があるんだから」
――いい言葉だと思った。
それ以来、俺は営業回りの時に、いくら嫌いな奴が相手でも、そいつの良い部分だけを一生懸命探すよう努力した。
そんなアニキのことだから、当然面倒見も良かった。
部下が困っていれば、身を呈してかばってくれた。
――1ヶ月前のことだった。
俺は取引先からの発注数量を間違え、相手先のイベントを台無しにしてしまった。
アニキを始め、俺たちの営業グループ全員で相手先に謝りに行ったが、それだけで収まりは着かなかった。
取引先は本社に対し、契約解除を言い渡しに来たのだ。
翌日、怒った本社の取締役が営業所にどなりこんで来た。
「おい!どこのどいつだ!!ウチの会社を潰そうとする奴は!顔見せろ!!」
その途端、俺の足はガクガク震え出した。
しかし、俺がこの場に出ないと収拾がつかない。
俺は震える右足を、そっと前に踏み出した。
(続く)