MLS-001 026

砂春陽 遥花  2009-09-22投稿
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今から13年前。

皇鈴は、
遠く北華の地方都市、黄泉に
3人の家族と住んでいた。

夫、京執は
零細企業の勤め人ながら
家族思いのよき夫。
双子の娘、真花、龍花は当時5才。
起きている間は
始終面倒を起こす年頃に
手は焼けるが可愛い盛りであった。

その日、
京執は娘二人を
郊外の動物園へ連れて行った。

当時には珍しく
仕事を辞め、育児に専念していた皇鈴は
一人家に残り、
週にたった半日の
自分だけの時間を楽しんでいた。

窓辺に座り
温かい陽だまりの中、
本を手に
遠い昔、心豊かな時代を
生きた人々の思いに
胸を馳せる。

台所には、
大きな器に盛り、ラップをした
トマトとズッキーニと鶏肉のリゾット。
後はチーズをのせて焼けば
子ども達の大好物の出来上がり。
冷蔵庫には
深いボールいっぱいのサラダも
家族の帰りを待っている。


時は4時。

日はまだ高いが
京執は明日も仕事だ。
明日に疲れを残ぬように、
もうじき帰って来るだろう。

真花は迷子にならなかったかしら。
お転婆な龍花は
転んで怪我しなかったかしら。

子ども達と一緒にいる間は
ほとんど過ごすことの出来ない
穏やかな時の流れの中でさえ、
気が付けば、
子ども達のことを
考えている自分が居る。

もうすぐ
玄関の鍵を回す音が聞こえ、
新しい一週間が始まる。

寝ぼけ眼を擦りながら
手を引かれた真花と、
お父さんの胸の上で
すっかりお休みの龍花。

それに
疲れてても笑顔で
「ただいま」と言ってくれる
あの人が帰って来る。


皇鈴は自分に苦笑した。

あの人がくれた後少しの休日、
もっと楽しまなくっちゃ。


皇鈴が
再び本に目を落としたとき、

電話が鳴った。



…悪い知らせか。

明広の心の声に、
皇鈴はうなずいた。

「そう…長い悪夢のはじまり。」

水の底に沈む鉛のような声だった。





朝日を受け、
微かに温かいコンクリートが
心地よい。

外気に触れる腕が冷たくて、
毛布を探す手が、
妙に弾力のある物体に触れて
花鼓は目を覚ました。



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