子供のセカイ。66

アンヌ  2009-09-22投稿
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暴力は時として人を狂わせる。特に大人数で無抵抗な一人を囲む場合はなおさらだ。
男たちは快感に酔っていた。痛みに声を上げる王子の体を、これでもか、これでもかと踏みつける。柔い少年の骨がボキッと嫌な音を立てて折れた時、王子は叫んだ。悲痛な叫び声は、男たちをますます暴力へと駆り立てた。
男たちは夢中なあまり気づかなかった。美香を拘束していた男が何かを見て、悲鳴を上げて逃げ出したことも、迫ってくる巨大なものにも――。
ふと頭上に影がさし、一人の男が顔を上げた。絨毯に乗った美香が戻ってきたのだろうと、それくらいにしか思わなかった。
そして目が合ったものに、男の体は硬直した。
「う、わああああっ!」
走り出した男の目の前の地面がべこん、と音を立てて陥没した。男は勢い余って尻餅をついた。そろそろと上を見上げる。先程地面を陥没させた巨大な緑の塊が、男の真上に浮かんでいた。
ブン、と空気を切り裂く音を立てて、数百の棘を生やした塊が男に向かって落ちてくる。
男は今度は悲鳴を上げる間もなく、緑の塊の下敷きになった。
美香は震えていた。よくわからない衝動が美香を突き動かしていた。確かな恐怖があるはずなのに、なぜか「気分がいい」のだ。ざまあみろ。美香の頭の隅で、悪魔によく似た誰かが囁いた。これは罰だ。王子にしたのと同じだけの痛みと苦しみを与えてやる…!
美香の意思で、サボテンの片腕がゆっくりと持ち上がる。プレスされた男の体を見たくなくて、美香は、目をそらした。
そうだ、嫌なものは見なければいい。
サボテンの怪物がギギギ、とぎこちない動きで後ろを振り返った。そこにはすでに誰もいなかった。傷だらけの体を地面に横たえたまま、ぴくりとも動かない王子を除いて……。
美香はひゅっと息を呑んだ。それは王子の亡骸に見えた。王子は動かない。不自然な体制で地面にうつ伏せに倒れたまま、体の無数の箇所から血がじわじわと流れ、服は泥や血で汚れていた。
「……王、子…?」
逃げ出した男たちのことなど頭から吹き飛んでいた。美香は地上に向けて一直線に飛んだ。白い絨毯から飛び降りると、それはもとのぼろ切れに戻った。
「王子!」
走り寄って体を抱き抱えた。王子は固く目を閉ざしていた。普段から白い顔が、ますます蒼白く見え、まるで人形のようだった。片方の鼻の穴と口の端から血が垂れている。



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