勇者たちは、モンスターを倒した。
「たらりらったったー♪」
どこからともなく、楽しげなメロディが聴こえてきた。
「はいはい、どうもどうも、おつかれさまでございまーす。ただいまの戦闘をもちまして、経験値が56894ポイントに達しましたので、勇者さんはレベル13になりました。おめでとうございまーす」
勇者たち4人の前に現れたのは、ネクタイをしめた、スーツ姿の男だった。
「それに伴いまして、体力が5ポイント、魔力が4ポイント、ちからが2ポイント、かしこさが1ポイント、寝相の良さが2ポイント、人づきあいの良さが1ポイント、それぞれアップしました!」
スーツ男は、持っているモバイル機器を操作しながら、早口で言った。
「いつもご苦労さま」
神官が、ねぎらいの言葉をかける。
「仕事ですから」
スーツ男は、淡々と返事をした。
「あたし、それ欲しい!」
突然、家事手伝いの少女が、スーツ男の持っている機器を指差して言った。
「ははは。ご冗談を」
「冗談じゃないよ。だから、ちょーだい」
少女は、しつこく食い下がる。
「だめです。これは会社の備品ですから」
「じゃあ、いくらなら売ってくれるの?」
「上司に叱られます」
「いいじゃん。昼寝してたら盗まれちゃったって報告すればいいじゃん」
「もっと叱られます」
いいかげん止めに入ればいいものを、勇者や戦士や神官たちには、どうすることもできなかった。というか、少女のワガママに、なるべく関わりたくないと思っている様子だった。
「てめえ、よこせよ!」
どこで覚えたのか、きわめてドスのきいた声で、少女がスーツ男を脅迫しはじめる。
「あ! どろぼー」
しまいには、スーツ男が持っている経験値測定器を、ムリヤリ奪い取ろうとしだした。
「ひとぎきの悪いこと言うんじゃねーよ。てめー、ころすぞ」
その口汚い言葉を皮切りにして、少女とスーツ男の格闘が始まった。
「てめえ、そのエロい手をどけろよ! おれに触んなよ!」
これ、少女のセリフである。
「ちょ、ちょっとやめて下さい! だめです! ちょ、暴力はやめて下さい! ちょ、あっ!」
襲いかかってきた少女から機器を守ろうとするあまり、スーツ男はその場に転倒してしまった。
「ガッ!……」
勢いよく後頭部を地面にぶつけたスーツ男は、そのまま動かなくなった。