しかし、ユウのあんな反抗的な態度は初めて見た。
やはり、これも仕事を辞めた俺のせいなのか。
思い起こせば、リョウがユウと同い年の時には、こんな事は1度も無かった。
ユウと比べて、少し要領がいいリョウは、反抗期さえも、うまく通り抜けて来たのかもしれない。
それは、来年の大学受験を推薦入学と言う形で、本人が希望している事からもうかがえた。
『あなた、夕食の支度が出来ましたよ。』
内心、夕食を作る心境ではなかったはずの妻が用意してくれた料理は、
皮肉にも、ユウの大好物のカレーだった。
『今日のカレーは、味が薄いな。』
『そうですか?!いつもと同じに作ったんだけど‥‥。』
夫婦2人きりの夕食なんて、何年ぶりだろう。
いつも、家族4人共、バラバラの時間に済ませる夕食に慣れていただけに、
その時間は、俺達夫婦にとって、何とも言いようのない不思議な感覚となった。
『ただいま。』
玄関のドアを開ける音がして、帰宅したのは、リョウかと思われたが、
なんと、その後ろには、ユウも一緒に立っていた。
『ユ‥ユウお帰り。
今日は、あなたの大好きなカレーを作ったから、たくさん食べなさい。』
妻は、ついさっき、たんかを切って、外へ飛び出した我が子が心配だったと見えて、
真っ先にユウにそう言った。
『近くのコンビニ寄ったらさ、偶然ユウに会ったから、一緒に帰って来たんだ。
なっ?!ユウ?!』
リョウは、膨れっ面をして立っている弟を気遣ってみたようだが、
どうやら、ユウの機嫌は直っていない様だった。
俺も自分の息子に、あの様な暴言を吐かれ、内心穏やかではないはずなのだが、
言われた言葉を思い返してみれば、
ユウの言っている事も一理あるのかもしれないと思った。
ユウにしてみれば、父親が真っ昼間の公園で、
1袋50円のパンの耳をかじりながら、新聞を読んでいる姿など、
決して見たくはないはずだった。