『さぁさぁ座って。
ユウの大好きなカレーよ。』
それは、妻が玄関先に立っているユウを座るよう促し、
お皿に、なみなみに盛ったカレーをテーブルの上に置こうとした瞬間だった。
ガンッッ‥ガラガラガッシャーン‥―ー‐
ユウは、妻がテーブルに置いたカレーを、
他の料理や食器と一緒に、床へ放り投げたのだ。
『こらっっ!!ユウ!!何て事をするんだ!!』
さすがの俺も、これには黙っていられなかった。
妻は、両手を口に当て、我が子の思いも寄らぬ行動に、放心状態だった。
『こんな不味そうなもン食えねーよッッ!!
さっきは、よくもクソオヤジにチクってくれたな!!
このクソババァ!!』
ユウは、妻に向かってそう言うと、
今度は、水の入ったコップを妻の顔めがけて投げつけた。
『キャアアァァァ―ッッ―ー‐』
コップの中の水は、見事に妻の顔に命中し、
床には、空になったコップが砕けて散らばった。
『ユウ!!やめろって!!落ち着けよ!!』
兄のリョウの言う事も、興奮しているユウの耳には届かなかった。
『こんな家、俺が崩壊させてやる!!』
ユウは、部屋の中の物を手当り次第手に取り、
妻や俺に向かって投げつけて来た。
その時、俺は気が付いた。
俺の中の怒りの源とは何なのかと言う事を。
『ユウ!!自分の腹を痛めて産み、育ててくれた母さんに対して何をしてるんだお前は!!
自分1人でデカくなったつもりかああぁぁぁ――!!』
バチンッッ―ー‐
ユウの頬を平手打ちした俺を、
睨み付けながらユウは、また家を飛び出してしまった。
『う‥うっ‥‥もう‥終わりよ‥‥何もかも‥‥。
何であのコが‥‥うっ‥‥うっ‥‥‥。』
妻は泣きながら、割れた食器を拾い集め、
リョウは何事も無かったかの様に、
携帯にかけてきた彼女と仲良く話し始めた。
『あ?!コトミ?!うん、オッケー。
これからお前ン家行くよ。
え?!うち?!ダメダメ。ちょっと問題のアル中のオヤジが暴れててさぁ〜。』