悠の試合はすごかった。
いつもの動きじゃない。
修二には、そのようにしか悠の柔道を表すことができなかった。
右、左、そしてまた右。
100キロを超す翔星の選手を崩している。
「嘉谷さん。悠さん、すごいですよ。普通、まともに100キロ超す選手を崩すなんて無理ですよ。」
新藤が驚いた顔で言った。
たしかに、普通じゃない。あの体格の選手を崩すのは俺でも厳しい。
まして、相手は名門、翔星の選手だ。
「あの小さい選手すごくないか?」
周りの観客の声が聞こえた。
翔星の選手の微妙に右に動こうとした。
その瞬間、また選手の体勢が崩れた。
それを見て、修二は気付いた。
「わかった。あいつ、相手の微妙な動きと足の運びに合わせて崩してる。」
修二は試合をじっと見つめながら言った。
「まさか、相手の動きを捉えてるのか?だとしても、あんなきれいに崩せるのかよ。」
慶吾が少し苦笑して言った。
それだけで崩すのは、本当にタイミングのみだといえる。
普通できることじゃないし、普段の悠でもできないはずだ。
組まずに試合をしている、というと表現が悪いがそれに近い。
片襟で崩し、両組になれば相手の隙を突いて技をかける。
ポイントは有効を2つとられて負けているが、悠とひとまわり体格の違う相手に負けていない。
スゲェ。
修二は心の底からそう思った。
悠が再び相手の襟を取りにいった。
それに合わせるように相手が悠を捕らえにかかった。
ヤバイ。
捕まったらまずい。
バッ!!
瞬間、会場にいた人の何人かの人は悠を見失ったかもしれない。
バァン!!
審判の手が上がった。
「一本!!それまで!!」