「はい。私の父は、こちらです」
矢口は斉藤を、父親の遺体の傍へ案内した。
斉藤は、ヘルメットを脱いで膝まづくと、深々と頭を下げ、手を合わせた。
そして、その横に並べられた、セスナ機の犠牲者、5人の遺体にも手を合わせた。
「後の9人は、こちらです」
野崎が、大きな穴を指差すと、斉藤が、穴を覗き込んだ。
斉藤は一瞬、地獄の様相に顔を背けたが、同じ様に手を合わせた。
そして、同行して来た捜索隊員に指示を出し、引き上げ作業が始まった。
斉藤は、矢口と野崎の方に向き直ると、静かに話を始めた。
「矢口君。私は大変な事をしてしまった。……」
斉藤は、矢口の父親が、滑落事故に遭った後の事を、全て話した。
「矢口君。君の父親は、偉大な山男だった。登山者の安全を、誰よりも考えていた。私は、その矢口隊長に嫉妬していた……」
矢口は、斉藤が本心から話しているのを感じた。
「私は、この作業が終わった後、責任を取ることを決めた。本当に申し訳ない事をしてしまった」
斉藤は、2人に頭を下げると、自ら水に濡れながら、遺体の引き上げ作業に加わった。
〜〜終わり〜〜