「ぐぅ…。くそっ」
静寂に包まれた一本の林道。
その脇では、一台の車が大きく煙を上げながら逆さになって停車していた。
そして、その横には泣きじゃくる少年と鉛色の空を見上げながら荒い呼吸を繰り返す男の姿がある。
…二人共傷だらけであり、力無く木に寄りかかっていた。
そんな彼等を見つめる者が2人居り、その手には拳銃が握られている…。
「どうだ? 今の気分は。“麻薬王さん”よ」
無精髭を生やした中年男が、そう言って荒い呼吸を繰り返す男に銃口を向ける。
「…黙れ。“デイビッド”こいつには手を出すんじゃねェぞ!」
「ほぉ。お前の様な悪党でも、やはり自分の子は可愛いか。ふっ、安心しろ。殺しはしないさ」
その時、そのデイビッドという男は今までの陽気な顔から一変し、鋭い眼光を飛ばしながら男の胸倉を掴み始めた。
「ぐぅ…。どうする気だ?」
「ここは圏外だから警察は呼べない。だから、街へ行って直接お前を引き渡す!」
デイビッドはそう言って、左手を更に胸倉に食い込ませる。
「“スティーブ”! そこにいる坊主を頼むぞ」
「父さん! 分かった」
デイビッドの背後にいた“幼き頃のスティーブ”は拳銃を片手に、その少年の元へと駆け寄る。
「父さん! 助けて!」
少年は泣きじゃくりながら、男に必死に訴える。
「“アンソニー”大丈夫だ! 直ぐに助けてやる!」
男はそう言うと、目の前のデイビッドに思い切り頭突きを喰らわし胸倉から手を引き離した。
「俺を舐めるなよ…」
男は間髪を入れずに、デイビッドが手にする拳銃を蹴りで弾き飛ばし、そのままデイビッドを押し倒す。
「あっ、父さん!」
アンソニーという少年に駆け寄っていたスティーブだったが、彼は瞬時に今の父親の状態に気付く。
やがてその足はデイビッドの方へと伸びていた。
「ぐぅ…。諦めの悪い野郎だな」
「ふっ。お前を殺してやる! あのガキもな!」
「お前…」
次の瞬間、男は手に持っているナイフを思い切り振り上げた。
(まさかこんな所で…)
デイビッドが覚悟を決めたその時。
…一発の乾いた銃声が彼の耳に入った。
続く