その瞬間、前にいたアニキの足が、俺の踏み出した右足の上にギュッと乗っかり、俺は声にならない声で「ア…」と叫んだ。
同時にアニキは前に向かって歩き出し、取締役に対し深々と頭を下げた。
「今回の件については、チームリーダーである私が全責任を負っており…ここにいるメンバーは…全く関知しておりません。この度は大変…申し訳ありませんでした」
穏やかな口調ながらも、決意に満ちたアニキの迫力に圧倒され、身動き出来ない俺はおろか、取締役もしばらく無言でアニキの垂れた頭(こうべ)を見つめていた。
やがて取締役が口を開く。
「この件については誰かの処分は避けられない。詳しくは、来週の懲罰会議後に発表する」
そう言って取締役は営業所を後にした。
居ても立っても居られなくなり、俺は取締役を追い掛けようと入口に向かって走り出したが、それをアニキが制止した。
「やめろ翔!これは本当にオレの責任なんだ。チームリーダーである私が、チェックを怠っていたからだ」
「だけど…なぜ先輩だけが責任を被る必要が…!!」
「オレの事は気にするなって!それより未来あるテメェ自身のことをもっと大事にしろよ」
アニキは優しく微笑んだ。
(続く)