「…すみません」
俺は情けないくらいに、月並みな言葉しか言えなかった。
――その日は長い一日だった。
誰も口には出さないものの、俺には何となく距離を置いているのが分かった。
俺は俺で、黙々と仕事をこなすことで、気まずさを必死に埋めようとしていた。
気が付くと夕刻になっており、いつもの調子に戻ったアニキが俺のところにやって来た。
「翔ちゃーん!今晩、コレッ、飲み行く?」
そう言ってアニキはクイッと手首を返した。
いつもの俺なら、二つ返事で付き合うところだった。
しかし、今日の今日だ。
この仕事を明日に延ばせば、また誰かに迷惑を掛けるとも限らない。
俺は申し訳なさそうにアニキに言った。
「先輩…今晩はやめときます。やりかけの仕事を今日中に仕上げたいんで」
そう言うとアニキは、
「お…そ…か。そっだな…頑張って!!無理すんな」
と言って、珍しく一人で帰っていった。
俺は今朝の一件をまざまざと思い出し、アニキの誘いを断ったことを多少後悔したが、逆に何が何でも終らせてやろうと、自分の身体に鞭打った。
その甲斐あってか、仕事は思いの外はかどり、予定よりも早く終わらせることが出来た。
(続く)