翌日、いつもよりはやく起きて、泣きはらした目を冷たいタオルで冷やす。
冷やしても大して治らない目のまま、今日は登校する。
花が言ってくれた。
よく頑張ったって。
泣いちゃって、情けないような告白だったけど、でも自分でも、頑張ったって思えるようになった。
花のおかげで…。
「優!おはよ!」
「おはよう。花」
花は私の顔を見て、何も言わずに私の頭をくしゃっとなでた。
「廣瀬!おはよっ」
明るく木村くんが声を掛ける。
私は俯いて、顔を見られないようにしている。
「おはよう」
「廣瀬、風邪?昨日休んでたからさ。だいじょぶか?」
「う、うん。もう平気」「無理すんなよ」
軽くポンと肩を叩いて、木村くんはまた別の友達の所へ走っていった。
いつものように筆に油絵の具を乗せ、筆を運ぶ。
今描いているこの絵は、泣きたくなるような…
でも幸せな気持ちになるような…
そんな気持ちにさせた。
「桜」
後ろから花が声を掛ける。
「優、桜の絵を描いてたんだね。初め全体が水色と白だけだったから分からなかった」
「うん。初め空だけだったから。」
花が絵をのぞき込んで見ている。
「この桜…」
「ん?」
思い出した。
「この桜、入学式の時に見た桜なの。青空に白いピンクが映えて…」
「そうえば綺麗だったよね」
笑顔で花が応える。
「花びらが舞ってる校庭で、空を見上げている人がいたの」
私のずっと心の奥にある、色あせることのない、絶対的なもの。
「その姿があんまり綺麗で…見とれてた…」
花は黙って話を聞いている。
「その時から、その人のこと無意識に目で追うようになって…」
筆を進めながら、思い返しながら、ゆっくり話す。
「朝、その人と会えると、嬉しくて。今日はツイてるって。いつもと一日の始まりが違うの」
ふっと笑いながら、私は言葉を続ける。
「体育祭のときは声に出せないけど、その人のことを心の中で応援したり…」
「授業中、その人のクラスが体育で、窓から姿を見れるのも嬉しかった」
「時々、目があったりすると、ほんとに嬉しくて…」
好きな人がいること、想える人がいたことで、私の高校生活は、素晴らしいものになった。
大嶋くんのおかげで…。
私の高校生活はすべて、大嶋くんを中心に回ってた。
続く