『あ、そうやっ!』
愛は突然何かを思い出したらしく
鞄の中を探り始めた
『あった、見て!』
愛の取り出した手紙には
beat 中野 卓也様
という愛らしい
可愛い字が書かれていた
『ファンレター書いてん!
今日なぁー、出そうと思ってんねん』
ちゃんと届くかなあ、
ときらきらした笑顔で笑う
愛はいつもこのバンドの話になると
本当に楽しそうだった
『あ、そうやっ
このまえゆうてたやつも
ちゃんと持ってきてん』
手紙をそばの棚に置くと
また鞄をさぐる
取り出した数枚のCDを
ベッドに広げる
『ゆかに貸したるわ!』
正直言うと私はこのバンドに
興味がない
でも少しでも愛が笑えるならと
私は笑顔で受け取る
“あ り が と う”
声のない私の言葉を見て
愛は嬉しそうに笑う
そんな愛を見て私も笑う