「また誰も居なかったんだね。」
「うん。」
「大丈夫、俺は今ここに居る。」
背中に回された腕がさらにぎゅっと強くなる。
それに安心して私も彼の背中に腕を回す。
なぜか、その時泣いた。
ありがとう、と言いたかったのに、言葉の代わりに涙が出てしまった。
頭に手が置かれる。
髪を優しくなでられる。
どうしていいのか分からない。
目の前には、確かに彼が居てくれている。
でも、分かっている。
彼が帰ってしまった後、虚しさに襲われること。
これから何度、私は彼を真夜中に呼び出すのだろう。
「会いたかった。」
涙が止まらない。
ごめんなさい。
きっと、あなたの「会いたい」と私の「会いたい」は違う。
でも言えない。
「私も会いたかった。」
ありがとう、とごめんなさいを頭の中で繰り返しながら。
涙は止まらない。
彼の腕の中にいる温かさに甘えている。
ずっと、じゃない。
今、居て欲しい。
誰かに。
あなたにとははっきり言えない。
ごめんなさい。
夜の闇は表情を変えずに、雨が降り続いていた。