角砂糖が溶けていくように?

紗弥佳  2009-09-24投稿
閲覧数[425] 良い投票[0] 悪い投票[0]

「梨花。」

彼は吸っていた煙草を私の口元に運んでくれる。
一本の煙草をシーツに包まれて交代に吸う。

「梨花にはあと何回会えるんだろう。」

「え?」

彼が見せた最初で最後の悲しそうな顔。

「俺が、こんな真夜中は無理でも、呼んだら来てくれる?」

「行かれる限り行くよ。」

たぶん、それは嘘じゃなかった。
行かれる限り、行っただろう。

「あと何回梨花とこうして一緒にいられるんだろうね。」

私ははっきり答えられなかった。
あと何回こうするか、私にも分からなかった。
でも、ずっと続かないことだけは分かっていた。
行き止まり。
返事の代わりに彼の肩に頭を乗せた。
彼の唇がまた重なった。
何度も、何度も。
外の静かな雨音みたいに、優しかった。
優しければ、優しいほど苦しい。
温かければ、温かいほど、痛い。
気がつけばまた、温かくて優しい腕から逃れられない。
頭の中が甘くしびれる感覚に襲われる。
気がつけばまた、息を殺してため息を漏らしている。
求められることに甘えていたかった。

「俺だけの側に居て欲しい。」

完全に行き止まりだ。
それはできない、と初めから分かっているはずだ。
それを彼も知っていたはずだ。

「無理なのは分かってる。今すぐにじゃないよ。」

そう言って弱く笑った。
少しだけ眠ったあと、じゃあね、といって明け方に窓から帰って行った。
その背中を見送りながら、見えなくなったあと、さよならを言った。
もう真夜中、彼には電話をしなかった。

さよなら。

誰かを失くすのは嫌いだけれど、さよなら。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 紗弥佳 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ