アニキの目は、焦点が定まっていなかった。
同時に、彼のカラダ全体から酒の強烈な臭いが漂って来た。
「先輩……」
俺がやっとの思いでそう呟くと、アニキは苦笑いを浮かべながら、小さく『ヘッ』と答えた。
しかしながら、一度切られた騒動の口火は戻せる訳もなく、車内の向こうで『警察、警察』と叫んでいる声が聞こえた。
そして今度は、近くにいた金髪の若者5、6人がアニキの周りを取り囲む。
「ふざけたオッサンだぜ!こんな奴は生きてる資格ねぇ。半殺しにしてやろうぜ」
若者の一人がそう言うと、アニキの髪の毛を掴み、顔面を思い切り殴った。
弾みでアニキの身体は、数メートル先の、座席のところまで飛ばされた。
さらに連中は殴りかかる。
度重なる殴打で、アニキの顔面はたちまち血に染まった。もはや目鼻の分別がつかない状態だった。
床に倒れ込んだアニキに対し、連中の一人が言った。
「この人間のクズが!!地獄へ落ちろ!!」
今度は連中総出で、アニキの全身を蹴り上げ始めた。
アニキの口から、ゲロの入り混じった血が吹き出す。
俺は堪らず、隣りで震えている女性に『ゴメン』と一言だけ呟くと、アニキの元へと駆け寄った。
(続く)