正志は占い師のいる暗い狭い道を抜け出し、少し賑やかな通りに出た。
見覚えのある道だ。確か、この辺りには以前一度、行った事のあるFITというバーがあったはずだ。久々だからそのバーへ行ってみよう。彼はそこから歩いて5分の所にあるFITというバーへ足を運んだ。
ドアのノブを引いて彼は店内へ入り、一番左側にあるカウンターへと座った。「いらっしゃいませ。」と店内にバーテンの声が響き渡る。
「ご注文は何にしましょうか?」
「トムコリンズでお願いします。」
「お客様、新規のお客様ですね?」
「いや、以前一度だけ来店した事があります。かなり前ですが。」
「そうですか。見ない顔ですからてっきり新規のお客様とばかり思ってしまいました。これからもFITを宜しくお願いしますね。」
「はい。」なんとも愛想のよいバーテンだ。年は35くらいといったところか。もしかしたらマスターかもしれないと思うのであった。
「はい、トムコリンズです。」テーブルの前にトムコリンズが置かれた。普段はあまりトムコリンズは口にしないが、今日は特別だ。しかし、先程会った老人の話しが気にかかった。そしてポケットに入っている錠剤。
しかし、自分のこのつまらない人生を変えるのにはこの錠剤でしかない。そう思うと彼はバーテンに水を頼んだ。手元に水が届くと彼はズボンのポケットから先程もらった錠剤を取り出し、手の平にのせて眺めた。この黄色い錠剤は何なのか?不安や恐れがある一方、これに頼るしかないのだと思うのだった。
そして彼は水の入ったグラスを手にとり、口に持っていき一気に飲み干した。が、何も無い。特に変わった症状は無い。幻覚も何もない。とりあえず、覚せい剤ではない事にホッとした。
「何だ、何もないじゃないか。驚かせやがって。」と思った瞬間、店のドアがガラガラと開いた。
そして一人の黒色の服に身を包んだ、長身で細身の女性が入ってきた。
正志は彼女に心を奪われた。
゛なんて綺麗な人なんだろう。゛