無事に春日山城へたどり着いた三郎。
半次郎があらかじめ連絡していたこともあり、景虎とは円滑に逢うことができた。
景虎は三郎より十三年上で、この時はまだ二十一歳だった。
景虎が長尾家の家督を継いだのは、これより三年前の1548年。
先代にあたる兄の晴景は病弱で、越後一国の人心を掌握するだけの才能がなかった。それを危惧した家臣達に推されて、景虎は越後の国主となっていた。
二人の対面は城内で行われた。
景虎の貫禄に威圧される三郎だったが、その瞳には一点の曇りもなく、涌き水のような清涼感もうけていた。
一方の景虎も三郎の凛とした瞳から、その心の強さと利発さを感じ、瞬時にこの少年を気にいっていた。
三郎の庇護を快諾した景虎。
続いて三郎の口から半次郎の死を報さると、景虎はその体すべてで悼んでいた。
「……そうか、半次郎は死んだのか」
窓の外に視線を移した景虎は、半次郎の事を思い出していた。
たまに現れては戦に参加して帰って行く。半次郎とはそういう男だったが、長尾家が苦境にある時は必ず現れるこの男に、景虎は深い友誼を感じていた。
しばし物思いに更ける景虎であったが、三郎に視線を戻すと、凛とした表情で言い放った。
「よいか三郎、お前は半次郎の分まで生きねばならない。それが唯一半次郎に報いる手段だと知れ」
強く頷いた三郎は、以後元服するまでの七年間をこの地で過ごすことになる。