僕の背筋に寒気がし、汗が流れる。
そうだ、こいつは殺人鬼なんだ。前に女の子を殺しているんだ!
怯える僕を無視して、タナーは馬小屋の戸を開けた。
「さぁ、中に入るんだ。さっき説明した仕事の他にコイツの世話もしてもらう」
僕は開けられた馬小屋の中を覗き込んだ。中に何がいるのだろう。テストとは何なのか。
答えは目の前にあった。
「これって…一角聖獣」
僕の眼前には、白いたてがみ・白い尾・黒曜石のような瞳、そして、目立つ白濁色の長い一角を生やした白馬が、敷き詰めた藁の上に座っていた。まさしく一角聖獣だ。
一角聖獣は僕らに気付くとゆっくりと立ち上がった。
「そうだ。ユニ(一角)コーン(獣)だ。それと、聖を付けるのは、キリスト教徒だけだ。孤児院がキリスト教だからお前は何の違和感も感じないだろうが」
タナーの言葉の後半は僕には聞こえていなかった。目の前に伝説の聖獣がいるのだ、今僕の全ての神経は目に注がれていた。
「さぁ…中に入れ。お前ならユニコーンに認めてもらえる」
タナーに背中を押され、僕は小屋へ入っていった。僕に恐怖は無かった。でも、畏敬の念は抱いていた。
ユニコーンをイエス・キリストと見立てる孤児院の教区吏達の影響のせいか、僕もそう信じ込んでいた。だから、ユニコーンに近付く事が自然と拒まれた。
「何をしてる?ユニコーンは美しい姿とは裏腹に獰猛な生き物だが、純粋な心を持つ処女にはなつく。お前なら認めてくれるはずだ。早くしろ」
タナーに急かされ、僕は勇気を出してユニコーンに近付いた。
すると、ユニコーンは僕の顔をじっと見つめた。澄んだ瞳には何の汚れも無かった。
「あなたですか?私を救ってくれるのは…」
この言葉が聞こえた直後、僕の意識は無くなっていた。