空は爽快。
蒼さは都会の空気に汚されてもなお、その美しさは健全だった。
夏独特の生暖かい風が白衣を通り抜けると、病院の作られた空気とは違う、生きた空気を感じることができた。
そこで、その風の独占者に私は声をかけた。
「いくら病人ではないといっても、1日中ここに居たら熱中症にでもなってしまいますよ?」
「大丈夫ですよ、ここは大好きな場所ですから……」
「答えになってませんよ…」
………大好きな場所か…
景色を見つめているんだろうか、こちらを振り向いてはくれなかった。
私も世間話でも話せればいいのだけれど、生憎と私は世俗には疎くてそういうのは苦手だ。
「………今日だと…思うんだけど……いいのかい?」
胸を抉る様な言葉しか発せない自分が嫌になる。
「さっきまでここに居ましたから」
包帯を巻いた少女はベンチの端に移動した。
隣に座って良いってことかな?
「今年で10年ですね………何だかあっという間でした」
とても18歳の少女が言ったとは思えない重さがあった。
老婆には程遠い、しかし生娘はとうに追い越している、
そんな感じだ。
「ありがとう」
「何ですか?突然」
「いや、そうでもないよ。
いっつも感謝している、ただ口に出す機会がないから、今言わせて欲しい。
ありがとう」
「いいえ、私は私の好きなようにしているだけです。
白状すれば、私の我が儘に過ぎないんです。
だから、私は感謝されるような事はしていませんよ」
「そうか……
なぁシノハラ君、訊きたい事があるんだ」
「何ですか?」
「今でも彼が好きかい?」
「はい………
私はいつまでも、
どこまでも
裕クンが好きです」