本当は、誰かひとりだけを見ていたい。
でも、誰も私だけを見ていてくれないと思っていた。
私以外の人、こと、もの…。
別のものを見て、別のことをしている間に少しでも、片隅に私のことを残しておいて欲しかった。
そんな風に思っていたあの頃。
一人だけを見ていられなかったのは私の方だった。
砂糖はもう、一杯のコーヒーに4つ入っている。
あなたと出会う前の、私に会いに行く度にいってきますのつもりで落としていた角砂糖。
眠れない真夜中、私はあなたに出会う前の私に会いに行くためにコーヒーに沢山の角砂糖を落とす。
結局、それはコーヒーと混ざらずに砂糖がどろどろとコーヒーの底に溜まっていく。
そんなに沢山いれなければ、きちんと混ざっておいしいコーヒーが飲めるのに。
ましてや、私はコーヒーに砂糖をいれて飲んだりしないのに。
あなたに出会う前の私に会いに行くための「いってきます」の合図が砂糖がコーヒーにとぷんと落ちていく音。
あなたに出会うまでのいままどの私の時間はコーヒーの底にどろどろと溶け残った砂糖みたいだ。