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それから数時間経っても、ユウは帰って来なかった。
『あなた、もう11時ですよ。
あの子、どこをほっつき歩いているのかしら。』
ユウが家を飛び出してからずっと、時計とにらめっこをしていた妻は、
次第にオロオロし始めた。
『ちょっと煙草を買って来る。
ユキエ。君はもう休みなさい。
ユウの事は心配ないよ。
なぁに、明日になれば帰って来るさ。』
昔から、心配性で神経質な妻を、
ひとまず落ち着かせようと思って、言ったつもりなのだが、
やはり妻は潔癖症だった。
『放っておける訳ないじゃない!!
あの子は、本当は素直で優しい子なのよ!!
あの子が突然、あんな風になってしまったのは、一体誰のせいだと思っているのよ!!』
『俺のせい‥‥か?!』
独り言の様につぶやいた俺に、
妻からの返事は無かった。
煙草を買いに行くなんてのは口実で、
本当は、ユウを探しに行こうと思っていた。
いくら中学生の男の子だと言っても、
親から見れば、まだまだ子供。
俺は、ユウが行きそうな場所を考えながら、
妻の愛用のママチャリで、
全力疾走する事に集中していた。