子供のセカイ。69

アンヌ  2009-09-28投稿
閲覧数[363] 良い投票[0] 悪い投票[0]

美香は怖くなってジーナにすがりついた。
「王子は生きてるよね?このまま死んだりしないでしょう!?」
「…一刻も早い手当てが、必要だ。」
ジーナはそれだけ言うと、背に回していた布袋をおろし、また以前のように軟膏の入った小箱を取り出した。内心、王子の体質に舌打ちをしたい気分だった。魔法に弱い王子は、美香のようには助けられない。手遅れにならないといいが……。しかし美香にわざわざそれを告げて不安にさせるほど馬鹿ではなかった。
美香は、朦朧とする意識の中、ただ強い不安故に自己を保っていた。
しかしその時、目の端に映った信じがたいものに、冷水を浴びせられたように一気に意識が覚醒した。
「っ!」
ジーナが背後に獣の気配を感じ、振り返った時にはすでに遅かった。血の匂いに釣られてやってきた一匹の飢えたハイエナが飛びかかり、ジーナの顔面を飲み込もうとするように、がばりと大きな赤い口を開けていた。
(しまった…!防御魔法が切れている!)
ジーナはちっと舌打ちし、剣を抜き放とうとしたが、ここで抜刀したら王子に刃が当たることに気づいた。本気でヤバいと感じた時には、ハイエナのずらりと並んだ鋭い歯の一本一本まで鮮明にわかるほど迫っていた。ジーナは思わず腕で顔を庇う。
しばらくその体制のまま固まっていたが、いつまで経っても衝撃は襲ってこなかった。前方から押し寄せていた獣の臭いや殺気、圧迫感が消え、ジーナはそろりと腕をずらした。そこにハイエナの姿はなかった。
わけがわからずに茫然としていると、左背後からどさっと何かが崩れ落ちる音がした。ジーナはハッと振り向いた。美香が倒れていた。
「美香!?」


――――…………。


美香はふわふわと揺れていた。綿毛になって風に乗っているような心地だった。気分がよくて、どこまでも高く昇っていけそうで、美香はうっとりと目を閉じる。もう大丈夫。誰かが呟いた。しかしその声は美香を冷たい現実に呼び戻した。何も大丈夫じゃないわ。美香は言い返した。王子が大変なの。ジーナがハイエナに食べられてしまいそうなの。それから……それから……!美香はそこでようやく、自分の身を犠牲にしてまで美香を“子供のセカイ”に送り届けた、勇敢な幼なじみの存在を思い出した。彼の現在の状況も。自分や仲間のことばかり考えていたせいで忘れていた……。

i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 アンヌ 」さんの小説

もっと見る

ファンタジーの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ