あまりに突然の決着に、ほとんどの人が驚きを隠せていない。
「おい、今のって…。」
慶吾が顔をこわばらせたまま言った。
「小内、巻き込みですよね。」
河野がつまりながら言った。
「あぁ、たぶんな。」
修二が答えるように言った。
たぶん。
柔道をやったことのある人がいるなら思うかもしれない。
たぶんってどういうことだ?と。
小内巻き込みは小内刈りをかける際に、全身で巻き込んでかける一種の捨て身技だ。
きれいに決まれば相手の上に転がりこむような形になる。
だから、たぶんというのはおかしいのだ。
この技をかけて小内巻き込みだとわからないはずがない。
だけど、かなりの実力者にしかわからなかっただろう。
見えなかった。
修二の目には写らなかった。
突然相手が倒れたようにしか見えなかった。
「礼。」
両者が礼をして戻ってきた。
「賢ちゃん頼んだ。」
悠が疲れているのに無理に笑顔をつくって言った。
「まかせとけ。最後まで、絶対に行こうぜ。」
賢之助が試合畳に向かっていく。
「ほらな、修二。ちゃんとつないだろ?」
また悠が笑った。
「あぁ、ありがとな。」
あぁ、俺何カッコつけてんだろ?
今の悠はすごかった。
俺なんかより全然。
なのになんで賞賛もかけないかなぁ俺。
修二は内心自分に嫌気がさしていた。
悠を褒める。
それは今の修二にとってあまりにも難しい。
きっと言えば自分は勝てない。
修二にはそんな気がしてならなかった。
「はじめぇ!!」
審判の声。
修二はただ試合を見つめて、待つ。