目を覚ますと、梨花は隣に居なかった。
キッチンでコーヒーを淹れて、ブラックで飲んでいるのだろう。
不眠症のくせに。
また、眠れなくて困っているに違いない。
どうせ眠れないのなら、眠ろうとするために無理にベッドに入って目を閉じるよりも起きてぼーっとしている方が自然だと思う、なんて言っている。
コーヒーを濃いめに淹れて、ブラックで何杯か飲んで飽きてくるとテーブルの上のシュガーポットからコーヒーシュガーをだしていくつもコーヒーに落として無駄にして遊んでいるみたいだ。
朝、カフェオレに砂糖を入れようと思ったら、空っぽになっていたことがある。
僕はカフェオレに砂糖を入れるときに少し高い位置からカップに落とす。
とぷん、と音を立ててカップに落ちていく音を聴くのが好きだ。
梨花と知り合って、初めてカフェでおしゃべりをしながら僕がカフェオレにそうやって砂糖を音を立てていれたとき、不思議そうな顔をして見ていたので、砂糖がカップに落ちていく音を聴くのが好きなんだと説明しながら、梨花にその音を聴いてもらうためにもう一つ砂糖をカフェオレに落とした。
「いい音。」
焼きたてのスポンジケーキみたいなふわふわのやわらかい笑顔でそう言ってくれた。
「私もその音、好きだな。」