梨花はどうしたら、笑顔を見せてくれるときみたいに幸せそうな寝顔を見せてくれるのだろう。
今は笑っているけれど、さっきまで泣いていたみたいだ。
涙のあとが目尻に少しついていて、瞼が少し腫れている。
「でも淳は甘いの好きだもんね。」
梨花はいたずらっぽくまた笑った。
僕も同じように笑って返す。
「それにしたって、これは甘過ぎ。」
隣で笑っていてくれて、幸せそうに眠って欲しい。
なんで眠れないのか訊いたことがあるから、尚更そう思う。
「時々、淳が隣にいてくれても、すごく自分が一人のような気がするの。」
一緒に暮らし始めてから、不眠症だとは聞いていたけれども、リビングに電気もつけないでコーヒーをひたすら飲んでぼーっと起きている梨花の後ろ姿は見ていて痛々しかった。
「隣にいるよ。仕事があるから一日中は無理だけれど、隣に居るよ。」
そう言った僕に、梨花は殆どカカオだけでできたチョコレートを食べたときみたいな苦い顔を一瞬見せたあと、寂しそうに微笑んだ。
「もう、誰も居なくなって欲しくないの。病気だとか事故とかで死んじゃったとかそういうのは仕方がないけれど、誰にも居なくなって欲しくなくて、ただ一緒に居てくれるだけじゃなくて、心も一緒に居て欲しいの。」
そう言って、何か色々思い出してしまったのか泣いてしまった。
その夜、梨花はずっと泣いて、泣き疲れてソファに座った僕の膝の上でやっと眠った。
泣きながら、僕にずっと「ごめんね、まだ話せないことが沢山ある。」と言っていた。
「淳はずっと隣に居てくれるよね。」と訊いてくる度に大丈夫だよと言って、梨花の小さな頭や、猫っ毛の柔らかい髪の毛や、小さいけれども温かい背中を撫でながら、「大丈夫だよ、安心して。」ともう片方の手で梨花の手を握りしめていた。