この話は誰にも言っていない。
親友にすら、言っていない。
私だけの秘密…。
山科透。
33歳。
現在、絵画教室の講師として働いている。
毎週水曜日、午後1時〜4時まで。
人付き合いが下手な私にはちょうどいい。
そう思っていた時に、彼が現れた。
金髪にピアス…
身長180センチあるだろうか…
今時の男の子…
苦手なタイプだ。
この子、教室間違えてるんじゃないかな…
「あの、どうされました?」
「あ、俺、今日、絵画教室の体験で申し込んだ名波です」
「!…名波アキさん?」「はい」
今日、体験でひとり来るとは聞いていたけど…名前からして女の子が来るのかと思ってた…。
「どうぞお入りください」
「ども」
「今日は体験ですので、教室内にある好きなモチーフを選んで、デッサンしてみてください」
「分かりました」
申し込み用紙に目を通す。
名波アキ。
21歳。
K大学3年。
デッサン希望。
K大…医療系大学だ。
芸大とかではないのね。
この子、どんな絵を描くのかな…。
ふと彼の方に目をやると、彼は私の方を見ていた。
「何を描いてるんですか?」
「あなた」
「え?」
「先生を、描いてます」「!」
彼のスケッチブックを見ると、この短時間で私が申込書に目を通している姿が描かれていた。
力強い線。
殆どが迷いのない一筆書き。
彼の芯の強さを表しているようだった。
この時の感情を、何と言ったらいいのだろう。
一気に彼の絵に、魅せられてしまった。
アキとは、こうして出会った。
続く