…気がつくと僕は椅子に縛り付けられていた。
辺りは暗く異臭が立ち込めている。
僕の回りに蝋燭が数本。壁際にも数本灯されている。
明かりはそれだけだった。壁際では紅いスーツと白いワイシャツの男が2人。
こちらに背を向けて何かしている。
「ぐすっ…貴士ぃ…」
亜季も隣で椅子に縛り付けられて泣いているようだ。
「…ぅ…ぁ」
まだ頭が朦朧としていてうまく答えられない。
「おや?気付いたようだね。」
笑い顔の仮面の男がこちらを見た。それに続き泣き顔の仮面の男もこちらを向いた。
「…まったく。死んでしまったかと思ったよ。」
泣き顔の男が楽しそうに言う。
ようやく頭がはっきりしてきた。
「どういうつもりだ!」
僕は大声で怒鳴った。
「私達兄弟は生きた紅い色が大好きでね…」
「そう…見てみなよ。にいさんのスーツ。とても素敵だろう?」
「せっかく来て頂いた訳だし…君達には弟の為に協力して頂こうと思ってね。」
何を言っているのか分からなかった…。
…ピチャッ…ピチャッ…
「うん…今日はこの位にしておこう。…やはり薄いかな。君達が三人で助かった。」
「わかった。兄さん。」
男等がいた壁には蝋燭の灯りに照らされた…無惨な姿に変わり果てた武雄が吊るされていた…。
それを理解した時、目の前が暗くなっていった。
「おはよう。今日はお姉さんにお願いしようか。」
いいながら笑い顔の仮面の男が亜季を壁際まで引きずっていく。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」泣き顔の仮面の男は武雄の死体をゴミでも捨てるように投げ捨てている。
そのあとはもう亜季が目の前で殺されていくのをただ震えてみているしかなかった…。
亜季の悲鳴もなくなりどれ位経ったのだろう…。
放心状態の僕の目の前に男達が立っている。
男達を見上げると真っ赤に濡れた手が肩に乗せられた。
「明日はよろしく…。」
そう言い残し立ち去っていった。
もうどうすることも出来ない。
殺されるのを待つだけ…。
狂ってる…。
明日には打ち捨てられた武雄や吊られている亜季のように殺される…。
一番怖いのは狂った人間…。
心の底からそう思いながら…僕はただ殺されるのを待っているしかなかった…。
紅いスーツ -完-