惠子と別れた古賀は、今日これから会う異色の新人、白鳥健吾との初顔合わせである。
レコード会社までメルセデスを走らせ社に着き、五階の会議室に入ると、すでに関係者やスタッフの顔ぶれがあった。その中に一人革ジャンにジーンズ、長い髪を後ろで束ねた若者が煙草をふかしていた。
その若者が白鳥健吾だ。
「おはようございます。白鳥健吾です」煙草を揉み消し古賀の目を見てから頭を下げた。
古賀はよろしくとだけ言った。
元々、古賀は白鳥健吾のデモをスタッフから聴かされて、古賀が白鳥の歌声に惚れ込んだのだ。それは、まるで往年のブルースマンを思わせる歌声だった。
彼には必ず何かがあるとその時、古賀は感じ今日の顔合わせへとなった。
関係者やスタッフの改まった表情にただ一人、白鳥だけは、大物プロデューサー古賀を前にリラックスした表情だ。
それを見て古賀はこいつは、なかなかな物が出せると感じた。
「まず俺の前で実際に音を出してみよう。せっかく集まってもらったが、悪いが今日は彼の時間を俺にくれないか」
みんなは一瞬表情をかえた。ただ一人変わらずにいたのは白鳥健吾だけだった。
「いいですよね?マネージャー!」白鳥は煙草に火を点け言った。
マネージャーは古賀がいうからには頷くしかなかった。
「悪いが今日はここまでだ。白鳥君、君だけは残って貰っていいかな」
それに対して白鳥は、もちろんですよと席を立ち古賀の前まで行った。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」古賀は白鳥に右手を差し出した。
白鳥健吾はしっかり古賀と握手を交わした。
古賀はこれは、凄いことが起こるぞという予感を越えた何かを胸に抱いた。