カフェオレに角砂糖が落ちていく音を僕が好きだ、と話したとき、「いい音。」と言ってくれたときの僕が好きな焼きたてのスポンジケーキみたいにふわふわの柔らかい梨花の笑顔を初めて見たときから、もっとその笑顔を見せて欲しくて、ずっと見ていたいと思った。
梨花の笑顔をみるまでには、長い時間がかかった。
梨花という女の子の存在を知ってから、初めてふたりでカフェで話をするまでに四年の時間が流れていた。
初めて梨花を見たのは、僕が大学一年生のときで、僕が通っていた進学塾でアルバイトの講師をしていて中学三年生の数学の授業を受け持ったときだった。
塾の休み時間に誰とも話さず、アンニュイな雰囲気で大きい切れ長で涼しげな目を坂口安吾や太宰治の本に視線を落としている、細くて、色白で長いまっすぐな黒髪の綺麗だけれど、気軽に話しかけてはいけないような感じの女の子だったけれども、話しかけてみたかった。
なんだか放っておけない感じがしたから。
担任講師ではないので、話す機会なんてなかったし、読書なんて殆どしたことがなかった僕は彼女に話しかけてみたくて太宰治や坂口安吾を必死で読んだ。