――『このあいだ、初めて
拓也の歌、聞きました
私、あの歌すごくすき。
それで病院でれない私のために
看護師の和田さんが
CD持ってきてくれて
毎日聞いてます』――
少し残念だった
本当は直接歌ってやりたかったな
あれはゆかのための曲なんだから
ゆかの手紙を読み
そんなことを考えていると
控室に真治が戻ってきた
今日はまた音楽番組の収録日だ
俺は真治を特に気にすることなく
手紙に集中していたが
彼が発した言葉に顔をあげた
「さっきbeatの卓也を
見かけたんだけど…」
珍しく彼は顔をしかめている
「え?今日あいつらも一緒なの?」
俺は卓也に会い
この前の頼みについて聞こうと
手紙をしまいかけたが
さらに真治の口からでた言葉で
手をとめた
「スタッフかマネージャーか
わかんねえけど
人と話していて、
あいつらある番組に
でるらしいんだけど…
なんか…入院中のファンの女の子に
歌うってゆう…企画みたいな…
どうも金のためっていうか
売上のためっていうか
あんまりいい感じではなくて…」