「空、こっちよ」
この声は!?忘れるはずがない。
振り向くと母さんがいた。
「母・・さん・・・? 母さんなのか!?」
「そうよ。さぁ空、こっちにおいで」
自分でもびっくりするほど、弱々しく歩いている。
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「そう焦るんじゃないよ、唯ちゃん。まだ死ぬって決まったわけじゃないだろう。」
唯は胸倉を掴む手を緩めたりはせず、むしろより強く掴んだ。
「あんた何、心を読むの?死ぬって―――」
「黙れ」
唯の肩が飛び上がる
酷く低い声で、さっきまで陽気に喋っていた爺さんとは思えない声。
普通じゃない雰囲気を放っている。
「おいおい、いい加減にしろ。こっちが笑顔でにこにこしてたらその態度か?
人が親切にこのくだらないゲームについて、教えてやろうとしたのになぁ?」
誰も喋ろうとしない。
時が止まったかのように。
「はぁ〜、なぜか気持ちが萎えちまったのぉ。さて、帰るとするかな。」
いつの間にかさっきの低い声から、最初の陽気な声に戻っている。
そして、唯達が入ってきた扉からでていこうとした。
「待って、あなたは何者なの?」
「・・・わしは合鴨(あいがも)とでも呼んだらいいだろう」
そう言うと彼はそのまま出ていった。
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母さんに会えた。二度と会えないと思っていた母さんに。
偽者だとわかっていても、そう思ってしまう。いや、偽者でいないでくれと願っている。