アディショナルタイム (1)

阿部和義  2009-10-04投稿
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 チームから契約非更新を通達されたとき、数日後には昇格が懸かる大事な試合を控えていた。

「――まさか、この俺が……」

 今シーズンは、全試合にスタメン起用されていたのだからまさに寝耳に水だ。
 確かにここ数試合は途中交代が多かったけれど、昇格のためにがむしゃらにやってきた挙げ句がこの仕打ちとは、フロントに対しては怒りを通り越してただ呆れるばかりだ。

 それでも監督からは次もスタメンでいくと言われていたし、気持ちを切り替えて練習に没頭するしかなかった。

 迎えた大一番。

 リードを許していたこともあって、俺は前半で退きベンチから戦況を見守った。一進一退の攻防が続き、スコアレスのまま試合はアディショナルタイムに入っていく。
 このまま引き分けでは昇格は難しい……。
 そしてラストプレーとなるフリーキック。
「頼む! 決めてくれ……」

 俺は祈りながらキッカーの左足を見つめる。乾いた音と共に、大きく放物線を描いたボールは相手ゴールキーパーを嘲笑うようにそのままゴールネットを揺らす。

「やった!!」

 高々と両手を突き上げると、待ちに待ったホイッスルがスタジアム中に鳴り響き、ベンチ前では歓喜の輪が出来上がった。

 ついに悲願の昇格を決めたのだ!

 急いでピッチ上で喜びに沸くチームメイトの中に加わったのだけれど、そんなところに素直に喜べない自分がいることがもどかしかった。
 今シーズンの、いろいろな出来事が走馬灯のように駆け抜けていく。

「もう、こいつらと一緒に戦うことはできないんだ……」そう思うと、堪えきれなくなった熱いものが頬を伝っていった。
 でも、これで終わりなんじゃない。俺の本当の勝負は、これからなんだ。

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