森の中にある遺跡のような場所――“生け贄の祭壇”。ついに辿り着いたんだわ。美香は目を伏せた。こんな状況でも、込み上げてくる感慨は相当なものだった。長い道のりだった。舞子にはまだまだ届かないが、ひとまず耕太には到達したのだ。
(耕太、もう少しだけ待ってて。)
王子とジーナの無事を確認したら、すぐに助けるから。
窓ガラスがないので、風が直に吹き込み、通路のあちこちに木の葉が溜まっていた。吹きさらしで、外となんら変わりのない室内は寒い。寒さに身を引き締められる思いで、美香は毅然として歩いていった。
その部屋にはすぐに着いた。通路をただ真っ直ぐ歩いて行って、最初の角を右へ曲がると、さっきと同じ石のアーチ状の扉と、中で動く人影が見えた。
美香はそれが誰か気づいて、高鳴る胸を抑えつつ、中年女性の横をすり抜けて人影に向かって走った。
「ジーナ!」
「!美香!お前、もう体は平気なのか?」
美香は部屋に飛び込んで、ベッド脇に立っている長身の女性に無我夢中で抱きついた。
ジーナは体当たりのように飛びついてきた美香に、少し驚いてよろめきながらも、優しい瞳で少女の背中を撫でた。
「悪かったな。あの時、ハイエナを光の子供の力で消してくれたんだろ?それで力尽きて気を失ってしまったんだ。無理をさせたな。」
「……ジーナが、無事でよかった……!」
体が勝手に震えそうになり、美香は浅く呼吸をしてなんとか抑えようとした。ジーナの温かい大きな手が背中を撫でてくれる内に、自然とそれは治まっていった。
美香は顔を上げると、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「王子はどこにいるの?無事だよね?ジーナは何で領域を越えたの?私たちのために来てくれたなら、本当にごめんなさい!ジーナはあんなに王様を大事にしてたのに、仕事を放ってまで来させてしまって。……あ、領域を越えたのならジーナも何か犠牲を払ったのよね?体は大丈夫?痛いところとか――、」
「ストップ。」
パン、と手のひらで顔を押され、美香は黙った。不服そうに見上げると、指の隙間から苦笑するジーナの顔が見えた。
「ひとまず落ち着け。何も今、全部説明することはない。それにお前はもう少し寝ていた方がいい。」
「それはあなたもだけどね。」
穏やかな声が割って入り、中年女性が二人の傍に立った。女性は相変わらず柔らかく微笑んでいた。