−半年前−
彼と彼女がであったのは校舎の屋上だった。
大学に入ってふた月。
大学生活では高校の時に比べて空白の時間が格段に増える。
一人暮しを始め、友達も少なかった彼は、出口のない思考の末、屋上のテスリをのりこえるにいたった。
「何をしているの?」
彼が生涯最後の一歩を踏み出そうとしたその時、首筋に白い声がふきかかる。
振り返ると、鼻先が触れるほどの至近距離に女の顔があった。
「ねぇ何をしているの?」
誰ダ?コノ女?
彼は落ちついた声でこたえる。
「少し、見たことないの世界を見に行こうと思って」
「そう」
少し頷くと女は一歩下がった。
「それはどこにあるの?」
「わからない」
彼は初めて目の前に立っている女の姿を視認した。
腰までのびた引き込まれそうなほど黒い髪。それと対象的に色素を全く含んでいない白い肌。
「わからないのに飛ぶの?」
「わからないから飛ぶんだ」
長い四肢は病的に細く、端正な顔には薄い微笑がうかんでいた。
「そう」
女はそう呟くと、ゆっくりとテスリをのりこえた。
ナニヲ考エテルンダ?
「なら貴方に付き合うわ」
………エ?