「賢ちゃーん!!急げ。あと30秒!!」
賢之助の動きが早くなる。今の両者のポイントは有効1つずつ。
時間はもう、残っていない。
賢之助の動きが一瞬止まった。
すかさず相手が技をかけにくる。
さすがに相手の井口は強い。
市瀬と同じ二年生だが、有名な選手で、副将をまかされている。
賢之助が技にかかりかける。
内股だ!!
相手が振り上げた足が賢之助の内腿を狙ってくる。
ヒュッ!!
井口の内股が空を切った。井口が一瞬、驚きの表情を見せる。
賢之助の内腿をとらえるはずの足が内腿にあたることなく、賢之助の横に振り上がっている。
内股すかし(内股でとらえられる足を抜き、逆に相手を投げる返し技)だ!!
「イッタァー!!!」
本山柔道部全員が声を上げた。
井口が宙を舞い、畳に叩きつけられる。
バァン!!
「マジかよ。」
修二の口から言葉がもれた。
井口。
凄まじい選手だ。
審判の声はあがらない。
投げられた瞬間、きれいに投げられるはずの井口が体をひねり、かわした。
ポイント1つなかった。
「ビイィィー!!」
試合終了のブザー音。
引き分けだ。
「礼。」
両者、礼の済ませ、賢之助が戻ってきた。
「悪い。勝てなかった。」
賢之助が言った。
「つないでくれてありがとな。あとは…」
「修二にまかせた!!」
悠が修二のセリフを奪った。
「俺のセリフだろ!とるなよ!んじゃ、行くわ。」
そう言って修二は試合畳に向かった。
これで決着だ。