彼は女が言ったことの意味がわからなかった。
いや、意味はわかった。わかったが、その行動は理解出来なかった。
イッタイナンダッテ…
彼は先ほどと同じ調子で女に問い掛ける。
「なんで?」
「だってその世界に一人で行くのは寂しいでしょう?」
「お気遣いありがとう。でも、君に付き合ってもらうのは悪いし、なにより理由がない」
「いいえ、理由ならあるわ」
彼が眉をひそめると、女はクスリと笑ってつづけた。
「私、貴方に興味があるの」
彼が黙っていると女はさらに続けた。
「私が初めて貴方に興味を持ったのは学部の新歓コンパ。みんなが流行りの恋愛小説で盛り上がっている時、貴方は一人だけ笑っていなかった」
アァ、ソンナ事モアッタナ
彼にはどうしてもその流行小説の面白さが理解出来なかった。そして、それを面白いと騒ぎ立てる人間も解らなかった。
「恋人が死んだからって感動できるほどボクはいいヤツじゃないよ。」
女は笑いながら言った。
「ふふ、だからそういうところに興味を持ったの。話しを合わせることもできたでしょうに、一人だけしかめっつらして。」
彼は苦笑して言った。
「空気が読めないだけだよ。」