私が一方通行に始めたあなたとの追いかけっこ。
初めて話した事、あなたはまだ覚えているかな。
初めて話しただけで、みんなの中で一人歩きしていたあなたという人が、私の中でがらっと変わって、私はあなたを放っておけなくなった。
あなたが大好きになった。
先入観を持つ事がどれだけ無駄な事なのか、あなたと話して気が付いた。
あの時私達は屋上で長い時間、話し続けた。
殆どの友達に、あなたを捕まえて話をするなんて信じられないと止められたけれど。
お兄ちゃんから聞いていたあなたと、みんなが話すあなたと。
差が有りすぎて、確かめてみたい好奇心が私を止めなかった。
九月半ばの暑さが残る屋上。
校庭から聞こえる部活動の歓声。
アスファルトの隙間からひょっこり顔を出して、風に揺れている猫じゃらし。
広辞苑を椅子にして、黒い背表紙の文庫本に視線を落とす横顔に思わず見惚れて、立ち尽くしている私に気がついた時の警戒心たっぷりの顔と声。
私がやっとお兄ちゃんに頼まれた事を話すと、あなたはありがとう、と笑顔を見せてくれてほっとした。
本当はずっと電話かメールしてみようと思っていたの、と。