「ホシゾラさん、いろいろとお世話になっています。」
ジーナが礼儀正しく頭を下げたのと、いいえ、と手を振った中年女性とを、美香は交互に見比べた。
「星空……?」
「私の名前よ。そういえば、自己紹介がまだだったわね。」
ホシゾラは白いスカートを軽く持ち上げ、優雅にお辞儀をしてみせた。
「私はホシゾラ。“生け贄の祭壇”の祭司よ。どうぞよろしく。」
「あ……私は、今藤美香です。」
それから、まだまともにお礼を言ってないことに気づいて、慌てて深々とお辞儀した。
「助けていただいて、ありがとうございました!言うのが遅くなってしまってごめんなさい。」
「いいえ。気にしないでいいのよ。」
どこまでも親切に、優しく微笑むホシゾラに、逆に美香は恐縮した。さっきまで疑っていたことを謝ろうかと思ったが、やはり言い出す勇気が持てずに口をつぐむ。
美香は、ジーナとホシゾラの会話に耳をそばだてた。
「その後、王子の容態はどうですか?」
「傷のせいで熱が出て、一時慌ただしくなったけど、今は安定しているわ。お薬を飲んで眠ってる。お医者様が傍にいるから平気よ。」
「完治するまでにどのくらいかかるでしょう?」
「そうねぇ。骨折やひび割れが何ヵ所かあったし、切り傷や打撲だけでもけっこうひどいものだったから……早くて二週間ってところかしら?」
傷の詳細を聞くのは、なんだか生々しくてぞっとした。
不意に耳を塞がれ、美香はびっくりしてジーナを見上げた。ジーナは美香を見ず、小声で何かをホシゾラに言っていた。
「……王子は、目を覚ましましたか?」
美香には何も聞こえなかった。
ホシゾラは二人の様子を見やりながら、小声で呟くように返した。
「まだよ。」
「そうですか……。」
「頭をひどくぶつけたか蹴られたかしたみたいね。出血してたわ。これで脳に影響がなければいいのだけれど。」
「……お願いします。どうか全力を尽くすと約束してください。」
「ええ。最初からそのつもり。」
ジーナが暗い表情でホシゾラに向かって再度頭を下げるのを、美香は成す術なく眺めていた。やがて耳から手を離されても、空気の重さに、何を話していたのか聞けなかった。
美香は、ホシゾラを振り返った。
「それで、王子には会わせてもらえるんですか?」
「……ええ。眠っている姿で構わないんなら。」