「この間の展示会、名波君の絵、好評だったなぁ」
「シゲさん、ありがとう!やっぱモデルがいいからっすよ!ねっ!先生」「…バカな事言ってないの」
アキがいる空間は、穏やかだった。
こんなに穏やかでいいのかと思えるくらい、穏やかだった。
自分から荒波立てることない。
たかが彼女のひとりやふたり…。
アキは若いんだから。
私が出した条件じゃない。
”深入りしない“
そういう関係を望んだのは、私だ。
傷つく資格さえない。
「透?」
「え…」
アキに声を掛けられ我に返る。
「どした?なんかぼーっとしてたけど…」
「ううん。なんでもない」
アキに気づかれちゃいけない。
私のこんな気持ちなんて…。
それこそ、この関係がおわる。
「アキ、コーヒーでも飲もうか」
「いいね」
絵画教室から少し離れた所にあるカフェに向かって歩く。
前から、何人もの人が歩いてくる。
その中のひとり。
スーツを着たサラリーマン。
こっちを見ている。
旦那だった。
続く