「いいけど…。」
「えっ…?」
「散らかってるぞ。」
何だ。そういう事か。
「大丈夫です。」
幸輔は呆れた。
部屋は予想していたよりはるかに散らかっていたが、ブルドーザー香山が部屋の隅の方に避けてくれたので、何とか座るスペースができた。
「で…話って。まぁ、こういうの聞く立場じゃないんだけどな。」
「先生…学校がおかしいんです。」
香山は表情を曇らせた。
「ん?おかしいって、どういう事だよ。」
「それがですね…。」
「そうなのか…」
幸輔はまず、神山先生の異変について述べた。
「それと、優太がケガをしてから、何かと新しい担任を怖がるんです。もしかして、先生に暴力をふるわれてケガをしたのかなと思ってしまいました。」
「そうか…でも岩塚先生は『優良教員』として認められてるはずだぞ。」
幸輔は首を横に振った。
「いや…違います。それは表の顔です。本当は…友達をいじめる…最低の先生なんです。」
「最低…か。」
香山は、しばらく考え込んだ。そして決意した。
「分かった。先生また、学校へ行ってみる。」
幸輔はほっとした。
「オレも、こういう立場だけど、こうやって困っている生徒を見て、立ち上がらない奴なんていないだろう。」
「そうですよね!さすが先生!」
「…それが先生でも…先生じゃなくても。」
あっ…と幸輔は思った。
もう、香山先生じゃなくて、普通の香山さんなんだ…と。
翌日。土曜日。
幸輔と香山は、約束したとおり、桜井中学校へ向かった。
「そう言えば、あの先生って、部活とかは何か担当してんの?」
「いえ。何も…。」
「じゃ、いるな。」
その道中、幸輔はずっと胸に秘めていたことを言った。
「先生…」
「何だ?山田?」
「先生は、学校から去ってから、どんな事を思ってましたか?」
「……山田。それはな…。」
言おうとした所を幸輔が
「先生がもし、僕達に会いたくないって思ってんだったら、僕は何も言いません。僕は…香山先生がいないと…。」
すると、先生は幸輔を叱った。
「いつまでも先生がいると思うか?」
「えっ…」
「幸輔も、もう15歳だ。先生に頼りすぎる年頃ではないんだ。先生は…もう手助けしか…できないんだ。」
「先生…」
先生の目が、潤んでいるように見えた。
「だから…幸輔。先生は、お前らをずっと見守ってるからな。」
それは、一人で頑張れとも言っているようだった。